コラム

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SANKYO WOMANスペシャルコラム


富田 絵里香(Tomita Erika)

富田 絵里香(Tomita Erika)

  所属先

  AREA 外構&お庭の設計事務所・手描きの図面屋

  保有資格

 ・1級造園施工管理技士
 ・一般社団法人 日本エクステリア設計協会正会員

  庭への想い

  手描き一筋、暮らしと夢のAREAを描き続けます。
  付加価値が感じられる住まいの提案を心がけ、 住み心地、デザインの満足度を高めていきたい。

  ~主な経歴~

  ハウスメーカーエクステリア部門、外構設計施工会社 15年間勤務を経て独立
  AREA外構&お庭の設計事務所立ち上げ12年目になります。

主な作品
主な作品

【 第5回 】 北欧デザインと旅のお話『フィンランド編』

今回も引き続き昨年7月に同業女性4人で旅した北欧デザイン考察の旅、最後の国フィンランドをご紹介いたしますが、その前に、スウェーデン・ストックホルム からフィンランド・  ヘルシンキ への移動手段のお話をしたいと思います。

飛行機なら数時間で到着できますが、私達はあえて時間をかけて1泊2日で2都市を結ぶクルーズ船を選択しました。

スウェーデンを出港すると北欧のヴェネチアとも言われる由縁でもある沢山の群島が現れ、しばらくはその間を抜けるように航海がはじまります。その島を見ると海岸沿いにはポツポツと住宅が点在しています。  

豊かな自然の中で暮らす贅沢さを羨ましく思いながら、どんな家族が生活しているのだろうか、バケーション用なのか、定住用なのかとそこでの暮らしを想像してしまいます。
群島を抜けるとバルト海の海原が広がりと北欧の夜遅くに現れる幻想的な夕日も見ることもできます。飛行機移動では感じられない美しい景色、自然の中での暮らしを自分の目線で間近に見て感じることができることがクルーズ船移動の醍醐味ですね。

▲スウェーデンを出港、フィンランド
▲深夜に沈むバルト海の夕陽

そして、客船内もお楽しみが沢山、食事やお買い物、スパ、お酒を飲みながらライブ演奏やエンターテイメントショー、時間はあっという間に過ぎてしまい翌朝フィンランドに到着します。最近注目を浴びているような豪華客船とまでは言えませんが、一泊しながら移動するには十分に楽しめ、寝る間も惜しくなるほどですので寝不足注意です。是非、お時間に余裕のある方は飛行機とは違った船でのアプローチがおすすめです。今度は鉄道移動をしてみたいなとも思いました。

ちなみに、北欧は消費税が高い事はご存知かと思いますが、船の中は非課税の為、地元のスウェーデン、フィンランド人もちょっとした旅行気分を味わいつつ、お酒を大量に買う為に乗船する人もいるようで、箱買いしている人も沢山いました。お酒が好きな私はフィンランドで滞在時用のビールを買っておけば良かったと後になって後悔した次第です。


ヘルシンキの街はフィンランドの首都でありますが、近代的なビルが乱立するような場所はなく自然も身近に存在する非常に落ち着いた街。

洗練された地方都市のようなコンパクトな街という印象を受けました。映画『かもめ食堂』の舞台でもあり、北欧デザインのアイコンともいえるマリメッコやイッタラ、アラビア などがあるので日本人女性に人気がある都市だそうです。人々は地に足が付いた落ち着きのある生活をしているように感じます。

特徴的に感じたのは先進国なら大抵どこにいってもある大手コンビニチェーンを見かけなかったところ。

ヘルシンキではR-Kioskiがコンビニ的存在のようで、トラムのチケットもそこで購入ができますので場所は要チェックです。日本のように至る場所にあるわけでもなく、24時間営業でもありません。ちなみにガイドブック等にはキオスクと書いてありますが、発音はキオスキに近い感じです。「キオスクはどこにありますか?」と尋ねたら分かってもらえませんでしたのでご注意を。

▲ヘルシンキ近郊はトラムで移動が便利。街の中心部なら停留所にチケット販売機併設されているけれど、郊外に行く時はKioskiで1日券を購入してから行くように!そうしておかないと帰りのトラム乗車の際に苦労します。私達がそうでした。。。
▲モダンデザインのトラム停留場にデコラティブなソファーで寛ぐ人々        
▲ヘルシンキの街に溶け込むカルテッド響き
▲公園のアイス屋さんもお洒落
▲貴重な夏を楽しむフィンランドの人々はテラス席が大好き。ちょっとした小雨ならそのまま座っていました。
▲お土産購入に便利な百貨店ストックマン。周辺にはマリメッコ、アルテックなどの路面店も集中しているエリアです。        
▲ヘルシンキのシンボル。大聖堂
▲街の中心部は重厚感のある建築が立ち並んでいます
▲街中で突如現れるオブジェのようなカンピ大聖堂。中は私語厳禁、まわりの喧騒が嘘のような静けさです。ガイドブック等で写真は見ていましたが思った以上に巨大で不思議な形。  
▲宿泊したホテルカンプ、ヘルシンキ唯一の五星ホテル。
▲ホテル内は伝統的な重厚感のある空間
▲朝食も、もちろん美味しい!       
▲カモメが飛び交う、港の市場
▲郊外、海岸沿いのカフェ通路との境、玉石使いが素敵
▲足を伸ばせばすぐそこに自然があります。   

▲大きな樹木の木陰がパラソルがわり。

フィンランドでのミッション①  ~教会建築訪問~

私たちのフィンランドでのミッションとしては、教会建築訪問と北欧を代表する建築家でもあり家具や食器デザインでも有名なデザイナーのアルヴァ・アアルトの自邸およびアトリエの訪問でしたが、その中で共通して感じたことは、北欧は冬が長く日照時間が非常に短いからこそ、太陽の光の大切さを知っていて、光を最大限に利用する建築が造られているように感じた点でした。

訪問した教会の中で私が印象に残った教会はテンペリアウキオ教会です。 

▲岩盤をくり抜いて造ったテンペリアウキオ教会

氷河期から残る地面から突き出した天然の岩をくり抜いて造られ、壁面は岩肌がむき出しの状態でゴツゴツとした荒々しい表情で残り、天井には直径24mの銅板、そのまわりに180枚の天窓が放射線状に張られ、太陽を表したデザインになっています。

そのガラスから太陽の光が薄暗い室内にアートのように差し込むさまは圧巻です。天然の岩肌は音響効果が優れているそうで、コンサートホールとしても利用することもあるそうです。並べられたベンチ状の椅子も印象的で藍色と紫色の大胆な配色で華やかさがプラスされていました。

▲光のデザインに感動

           

フィンランドでのミッション②  ~アルヴァ・アアルトの自邸およびアトリエの訪問~

アルヴァ・アアルトの自邸とアトリエはヘルシンキの街中からはトラムで20分ほどの郊外に位置する閑静な自然豊かな住宅街の中あります。この自邸とアトリエは徒歩10分程度の距離に建築されています。今回の北欧の旅中、フランスやイタリアと比べると日本人と出会う機会が少ないなと感じていましたが、こちらでは多くの日本人が訪問していてアアルトの日本人人気を実感します。

トラムを降りて地図を頼りに歩いて行きますが、うっかりすると素通りしてしまいそうなほど派手さがなく、さほど大きくもない建築なのでここが世界的に有名で巨匠と言われる建築家が暮らしていたとは信じがたい印象を受ける外観、建物の中へ入ると、外観以上に感じるこじんまりと感。なんだか懐かしいといった感情にもなる空間が広がります。なぜだろう。。。

ガイドツアーの説明によると、アアルトが日本の文化をリスペクトしていて、障子や引き戸をヒントにした説がありました。一部屋のサイズ感や廊下の幅などヒューマンスケールも日本の住宅に近い広さで造られているからなのかなと思いました。アアルト自身は巨匠でありながらなぜこのような慎ましい環境で暮らすのか、改めて実質的な住宅の心地良さは何なのかと考えさせられます。見た目や広さではない本当に大事なことは何なのか。家族が集まる空間、温もりを感じる暮らしがそこにはありました。

妻であり優れた経営者、デザイナーでもあるアイノと共に1936年に設計し造りあげた理想の家は、妻アイノが樹木や緑を愛し、造園家のもとで植物やランドスケープの勉強し、フィンランドの自然を感じられるよう樹木が植えてあり、「庭もデザインの一部」と考えて中庭に向く方が家の顔としてデザインしたそうです。部屋の中にも緑を取り入れることを大切にした造りは私たちの仕事に直結する手法、自然を生活空間の一部にする感性の重要性を改めて認識しました。

▲アアルト自邸、道路側のファサード
シンプルだからこそ難しいデザイン。壁の組み合わせ、白と黒の配分。現代にあっても古臭さを感じません。
▲樹木、自然を愛したアアルト夫婦にとって、庭側のこちらの表情が建築の顔としてデザインされています。     
▲1階リビング。奥にある日本の建築様式を真似た?引き戸の先が作業場があり空間を分けています。
▲2階、暖炉がある家族団欒スペースを囲うように各寝室が設けられています。アアルトが家族と過ごすことを大事にしていたのだろうと建築からも感じられます。
▲随所に感じる日本とシンクロするスケール空間。       

自邸とアトリエにはどちらにもスタッフが製図をする作業場が設けてあり、製図板の上にはT定規や、テンプレート、雲型定規などの道具類が置かれ、実際に書いた図面も広げてあったりと、手描きで図面を書く自分にはとってもテンションあがるワクワクする空間です。その場所は天井の形状と窓の配置が特徴的で、北欧の低く傾いた太陽の光を室内に効率良く広がるようにするために、窓を天井近くに設置しV 字型や、傾斜した片流れの形状にし反射させていました。スタッフが図面に集中できるようにあえて低い窓を設けなかった意味もあるそうなのですが、アアルト自身の机の前は自然をいつでも愛でられる大きな窓が設置されていました。。。

▲自邸、アアルト本人の作業用デスク
▲自邸、スタッフ作業場

▲引き面に飾られたT定規。
昔、祖父の家にあった物置に農機具がこんな風に置かれていたな。。。
今となっては、それも素敵なデザインだったと感じます。           

室内には木の温もりを好んだアアルト、アイノがデザインしたファニチャーも沢山置かれていて、実際に生活に利用していた様子が伺えます。質の良いシンプルで美しいフォルムのデザインは場所を選ばずにどんな場所でも使い勝手が良さそう。長く世代を超えて飽きることのないデザインは現代の私たちの生活にも色あせることなく魅力的にうつり、自分自身のトリエにも置きたいと思う物がたくさんありました。スツール只今購入検討中です。

実際に訪問することで感じたことは、100年近くも前に設計した建築のはずなのに、現代においても充分に通用するモダンデザインの基礎がそこにあり、暮らしの中で重要なものは何かでした。アアルトの巨匠と言われる所以を体感できるそんな場所でした。

▲自邸から徒歩10分程の距離にあるアトリエ。うっかりすると通り過ぎてしまいます。
▲アトリエは、建築インテリアのラボとしての役割を兼ねていたとのことで、多数の照明やスツール、窓の高さ、形状も実験的に作られています。       
▲アトリエの作業場。窓の位置、天井の傾斜で太陽光を効率的に分散。
▲中庭にミーティングスペース。階段状の座面。映像を映し出す壁面。100年程以前から既に外で仕事をする感性があったのね。。。感慨深い。 

  


今回の旅は北欧9日間3カ国、1カ国滞在時間は2日弱程度でした。正直に言って北欧のほんの入り口の一部を体感してきただけなので、北欧とは何かと偉そうに話す事はできませんが、今回感じた事は、自然が豊かである利点はあるものの短い夏以外は日照時間も短く、極寒、海も間近にあり強風にさらされる過酷で長い冬があるから家の中で過ごす時間も長い。家族と過ごす温もりある空間づくりを追求するからこそ一見派手で奇抜なデザインとも思えるけれど使い心地が良く、生活空間にスッと入り込みアイコン的存在として馴染むヤコブンのチェアーやルイスポールセンの照明、マリメッコのテキスタイルなどが生まれたのかなと思いました。建築も効率的に自然を取り入れ共有しつつそれ自体をデザインにしている。

そして、短い夏は思い切り外で過ごすことを楽しむ北欧の人たち。

便利になり過ぎない生活、過酷な自然が間近に日常の中にあるからこそ個人の人間力も高く、良いものを末長く使用する文化が身についている。昨今よく耳にするSDGsのサスティナブルの精神がすでに身についているようです。

あっという間の北欧3カ国旅行、電車やトラムのチケットの買い方、通貨がそれぞれ違うので、少し慣れたなと思うと次の国へ移動する。終始頭の中は混乱が続きますがそのドキドキも旅の楽しみとして思い出に残っています。でも次回はゆっくり1カ国づつじっくりと滞在できたらいいなと思う今日この頃です。

最後に旅したお友達3人のご紹介(デンマーク、ニューハウンにて撮影)

左から、国際バラのガーデンショー大賞等の受賞歴をもつガーデナー小林裕子さん。中央左側は私でございます。中央右側、三協アルミさんのセミナーでも活躍のデザイナー山本結子さん。右側、CADクリエーター、受賞歴多数のプロフェッショナル米田由美子さん。珍道中的エピソードも沢山ありましたが、今回のコラムでは割愛させていただきました。     


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