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SANKYO WOMANスペシャルコラム


富田 絵里香(Tomita Erika)

富田 絵里香(Tomita Erika)

  所属先

  AREA 外構&お庭の設計事務所・手描きの図面屋

  保有資格

 ・1級造園施工管理技士
 ・一般社団法人 日本エクステリア設計協会正会員

  庭への想い

  手描き一筋、暮らしと夢のAREAを描き続けます。
  付加価値が感じられる住まいの提案を心がけ、
  住み心地、デザインの満足度を高めていきたい。

  ~主な経歴~

  ハウスメーカーエクステリア部門、外構設計施工会社 15年間勤務を経て独立
  AREA外構&お庭の設計事務所立ち上げ12年目になります。

主な作品
主な作品

【 第12回 】 ミラノデザインウィーク2023 報告❶ 渡航前の準備とミラノサローネ会場出展のガーデンファニチャーブランドの紹介

今年、イタリアのミラノにて開催される世界最大の家具見本市ミラノサローネへ行って参りました。毎年4月に開催されていたのですが、コロナ禍以降は時期をずらし縮小され、今年は4年ぶりに4月開催として通常に戻り、現地はお祭りのように盛り上がっておりました。

そして、コロナ禍によって、以前よりも人々の住まいへの関心の高まりや、会えなかった時間があったこそ人々が集うことの大切さを改めて認識していると感じる家具や演出が多くみられ、その中でも近年から高まっているガーデンファニチャーを含めた空間の提案は願望からリアルへと加速度を増して生活により身近なものへと変化していると実感することができましたので、今回から3回連載でガーデンファニチャーを中心に、そして今後行ってみたいと思う方へに向けて必要な事前準備なども交えてミラノデザインウィーク訪問のご報告をさせていただきたいと思います。

ミラノサローネはミラノの中心部から地下鉄で30分ほどの距離にあるローフィエラミラノで1週間ほどの期間で行われる世界最大規模の家具見本市のことを言います。
同時期にミラノ市内各所で開催されるフォーリサローネもあり、その期間をミラノデザインウィークとして、建築やインテリア関係者に留まらず、自動車、テキスタイルのブランドなどさまざまな企業がその活動を発信しますので、デザインに携わる人々がその潮流を知るために世界各国からが集まります。
そのため、通常の海外旅行と異なった事前準備が必要だったので、まずそちらをお伝えしたいと思います。

渡航前準備① どのブランドを見に行くかをある程度決めておく。

展示会場はとても広く東京ドーム11個分の敷地の中に展示ホールが24個もあるため、入口から手前のホールを順に見学すると目当てのブランドに到着することが時間的にも体力的にも困難になります。

私はミラノ市内で行動できる期間は4日間。1日2万歩以上歩く日もありましたがガーデンファニチャーを取り扱うブランドに絞ったにもかかわらず、それで精一杯といった感じでした。

●展示ホールの写真
 この大きなホールが24個あります。

●会場内入口
 セキュリティチェック、チッケットの提示

会場内には寛げるアウトドア空間もあり。

渡航前準備② 公式アプリ(英語、イタリア語のみ)でミラノサローネ会場のチケット購入。

開催1ヶ月ほど前から購入が可能です。約1週間ほどの開催期間の中で、前半は業界関係者のみ、後半の週末2日間は一般の方にも開放されます。その中で行きたい日付のチケットを購入しておきます。

そして、この公式アプリは会場内の各ブランドの出展場所が分かるマップもあるので便利です。しかし、フォーリサローネに関してはアプリと連動していないので、市内さまざまな地区で何が開催されているのかを調べる必要もあります。

私は、以前コラムでもお勧めした青山周辺にあるショールームへ渡航1ヶ月ほど前に伺い、各ブランドの出展状況の詳細を収集しておきました。ブランドによってはミラノサローネと市内のフォーリサローネの両方で演出を変えて数カ所で出展をしていたり、どちらか1カ所で開催したりと様々です。

そして、できれば日本人のスタッフの方にご案内をしていただいた方が良いのですが、その日時が限られていることも多くあります。

ブランドによってはメールでの事前申し込みをしておかないと現地で入場できないこともありますので注意が必要です。それらの情報をもとに、なるべく無駄なく移動できるスケジュールの段取りを考えることがとても大変でした。

●ミラノサローネ公式アプリ 
 入場券の購入、展示ブランド情報、イベント情報が確認できます。


続いて、事前準備の③④として、ホテルと航空券の手配です。

これは通常の海外旅行でも必要ですが、ミラノサローネ期間中は世界中から多くの人が集まりますので、ミラノ市内のホテル料金は爆上がりします。決して高級ではないカジュアルなホテルで1泊1室2ベットタイプ1泊約10万円でした。それにもかかわらず利便性の良い場所にあるホテルは開催1、2ヶ月ほど前になると満室ばかりになりますので早め早めの手配がお勧めです。

今回は個人的に行きましたので、短い滞在期間の中で効率よく移動するためにはホテルの立地条件というのは重要なのでミラノ中央駅近くにしました。この駅にはマルペンサ空港からのエアポートバス発着場所が隣接しており空港から50分で移動ができます。大きなトランクを持って電車移動する必要がないので安心です。(鉄道でも空港からミラノ中央駅へ行けます)

そして、展示会場や市内の移動手段は主に地下鉄もしくはトラムになりますが、地下鉄の入り口もすぐの場所だったのでとても便利でした。ただし、治安があまり良くはないエリアなのでお一人での宿泊はお勧めできないかなといった印象です。


●滞在したホテル 
 ミラノ中央駅からすぐの場所、空港から約1時間のエアポートバスの発着所あり
 ミラノ市内の移動は地下鉄とトラムが中心
 少し治安が悪い場所なので女性一人での滞在は避けた方が無難


私はホテルにしましたが現地でお会いした方の中には、数人で一棟貸施設を手配し、自炊して節約したとのお話を聞いたり、日程的に余裕がある方はミラノ市内から電車で1時間ほどのリゾート地でもあるコモ湖周辺に宿泊しバーケーション気分も満喫する方など様々でした。身の日程と予算に合わせて選ぶと良さそうです。開催日程は1年ほど前に発表され(2024年は4月16日から21日)分かった時点でホテル予約する人も多くいるようです。

航空券ですが、現在はミラノへの直行便がないことや戦争の影響もあり以前より時間がかかりました。円安の影響もあり以前に比べると割高感がありますが、私自身はなるべくお安く旅費を抑えたいと思いましたので、半年ほど前に航空券の比較サイトに登録し金額の推移を見つつ最安値に近い時期を見据えて購入できました。実際購入したのは3ヶ月前の1月(お正月明け)です。エミレーツ航空のドバイ経由で往復約20万を購入。中東系の航空会社はとても評価が高く、同等の航空会社と比べると割安感がありますのでおすすめです。(状況によって変動しますのでご注意ください。)ちなみに、開催1ヶ月ほど前の3月には同じ航空券が100万円以上の値段がついていましたので驚きました。

最低限の渡航準備は以上ですが、一番大変だったことはスケジュールの段取りです。
そういった手間が苦手な方は、ガーデンファニチャー協会では再来年の2025年を目標にミラノデザインウィークへの視察を計画しております。ガーデンファニチャーブランドを中心に日本語でのご説明をいただけるような内容で計画中ですので便利かと思います。興味がある方は是非ご参加くださいませ。


さて、ここからが本番ですがミラノサローネ展示会場内で印象に残ったガーデンファニチャーのご紹介です。以前のコラムでもご紹介したブランドも沢山ありますので、そちらと読み比べてお楽しみいただくのもお勧めです。

GLOSTER(グロスター)

アウトドア専門ブランドのGLOSTERですが、今までスタイリッシュで直線的なフォルムが得意とするブランドイメージでしたが、展示の中心は丸みを帯びたチークフレームとロープで湾曲に仕上げられたBoraコレクションでした。細部の納まりを見ていただくとわかるかと思いますが、デザインの秀逸さや職人技術の高さがわかるディティールです。

そして、今までよりも自然界を意識した素朴でナチュラルなデザインにシフトしていると感じる印象です。日本的デザインや演出なのかなと思うものや植物のディスプレイなど今後の自分自身が提案する際にも参考になりそうなコーディネートでした。

神社の祭壇、三度笠を連想したのは私だけかな…

細部のディティールが秀逸な、Boraコレクション


GANDIABLASCO(ガンディアブラスコ)

スペインのアウトドアブランドです。ガンディアブラスコのラグ系のブランド「GAN」はテキスタイルに定評があり、今回も期待を裏切らないテキスタイルで注目だったのが、取り外しが簡単で、自宅でも洗濯することもできる樹脂系のリサイクル素材を使用したニットのような素材のカバーが付いた大きなクッションで構成されたソファ。

フレームのような躯体がないので、のんびりゆったりと寛ぎを満喫できそうです。アウトドア用として床面に接する面積が大きいほど速乾性に不利かと思われますが、もちろんその点もクリアできている素材が研究されているからこその自信を持ったデザインなのでしょう。

ニットのような素材のカバーが付いた大きなクッションで構成されたソファ。

取外しが簡単。自宅で洗濯が可能。


FLEXFORM(フレックスフォルム)

以前のコラムでもご紹介しましたが東京青山の根津美術館の数軒隣にもショールームを構えている、ブルガリホテルのデザイナーとしても有名な巨匠アントニオ・チッテリオが 監修を務めている日本でも人気が出てきている超高級イタリアモダンブランドです。

インテリア家具のトップブランドも室内と屋外で同じ家具でそろえることができるコレクション展開が増えている状況ですが、会場のアウトドアエリアがとても広く設けられておりガーデンファニチャーへの注力がどれだけのものなのかを肌で感じることができました。

FLEXFORMは控えめで洗練されたエレガントなデザイン、最高の品質と快適さに定評があり、ボリューム感たっぷりのクッションで重厚感のあるスタイリッシュさが特徴ですが、アウトドアに関してもそのフォルムを継承しているようです。

広いアウトドア空間

色味に関しては室内を模した展示と比べるとわかりやすいのですが、室内はベージュやブラックなど落ち着いた色調に比べ、屋外は明度と彩度共に高く軽やかな雰囲気もありつつ、ブランドならではの品の良さで洗練されたリゾートといった印象です。

室内空間

白のフレーム+チーク材のコンビと麻を編んだような素材のファニチャー、この2つのコレクションが中心構成されたいくつかのモデルプランを展開し、それぞれの空間の仕切りとして麻素材や竹林を連想する設えは、ノスタルジックなおもむきもあり心の安らぎにつながっているようでした。

白いフレームとチーク材のコンビ

麻を編んだような表情の材質

もう1つ注目した点として、タオル地のような取り外ししやすいカバーです。洗濯のしやすさやそのまま使用できる点や見た目を損なわない短期間のカバーとして、使い勝手がとても良さそうです。GANDIABLASCOでもカバーを紹介しましたが、こういった商品の展開が今後のガーデンファニチャーの普及に大きく響くのではないかと思います。

タオル地の取外しが簡単なカバー


extremis(エクストレミス)

extremis は、「人が集まる空間をつくりだす家具」をコンセプトに誕生した、ベルギー発のアウトドア家具専門ブランドです。

ブランドの創設者でヘッドデザイナーのDirkWynants(ディルク・ワイナンツ)は、「私たちがデザインしているのは、家具ではなく“tools for togetherness”(人々が集うためのツール)である」というポリシーで、人が集まる時間の価値を向上させるための家具を制作していますが、今回発表されている家具全てがそのポリシーを体現できるものでした。

新作パニギリの名前の由来は、老いも若きもテーブルの周りに集まり、話したり、食べたり、笑ったり、飲んだり、ごちそうしたりするギリシャの祭りです。コンセプト通り会場では人々が集まり、エンドレスに伸ばし続けられるテーブルには、いたるところでコミュニティが生まれ、私もベルギービールを頂きながら人が集まる家具を体感できました。

面付きの座席オプションなどもあるのでシチュエーションに合わせたカスタマイズも可能です。運搬など利便性も考えらたモジュールに分解できるようになっています。日本ではオフィス家具や商業施設などで普及しそうなアイテムです。

ギリシャのお祭りが由来の新作パニギリ。背もたれ付き座面がフレキシブルに取り付け可能



今回のコラムはここまでミラノサローネ会場で日本でも販売されているガーデンファニチャーブランドの紹介をさせていただきました。次回は、市内開催のフォーリサローネで印象に残ったブランドの紹介をします。

フォーリサローネならでは、ガーデンファニチャーの良さがダイレクトに伝わる中庭を貸切にした会場や、イタリアだからこそできるフレスコ画を背景にした建築とのコラボレーションなど見所満載です。

是非次回を楽しみにお待ちください。


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